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社会心理学とヨガ&ウェルネスの出会い


私が初めて「ミルグラム服従実験」について耳にしたのは、大学での心理学の講義の時でした。 この実験は、悪名高い「リトル・アルバート」条件付恐怖実験や、「スタンフォード監獄実験」とともに、実験における非倫理的行為の例として取り上げられたものです。かなりショッキングな内容で(失礼)、ある意味古き良き時代の実験でした。


倫理的な問題は別として、ミルグラムの実験で特に印象に残っていることがあります。それは、実験の結果から導き出された人間の本質について、そしてそれがいかに古代のヨギからの言葉と響きあっているのかということ。 その話は後ほどするとして、まず、実験について簡単にご説明します。


ミルグラム博士は、学習に関する研究と称して参加者を募りました。そして、教師役と生徒役をクジで分けるように見せかけていましたが、実際は参加者は必ず教師役を演じるように仕掛けられました。生徒役はミルグラムが手配した実験協力者で、生徒役のふりをしていただけだったのです。生徒役は特定の単語の組み合わせを覚え、先生役は生徒が間違えるたびに電気ショックを与えるボタンを押すという役割で、生徒役はわざと間違いを繰り返します。そして間違いが増えると、徐々にショックを強くしていきます。


このとき、生徒役(生徒を装った実験協力者)はわざと隣の部屋に閉じ込められ、先生役の参加者は目には見えないけれども耳には聞こえる状態で電気ショックのボタンを押すという状況でした。さらに面白いことに、明らかに参加者のストレスを高めるため、「生徒役」はショックが強くなるにつれて「やめて!」「心臓が悪い私には耐えられない!」「部屋から出して!」と苦痛の叫びをあげるのです。


ミルグラムは、ショックが学習効果を高めるという名目で、人間は他人を傷つけてもその指示に従うかどうかを研究していたのでした。


ミルグラムが証明し、その後何度も再現・確認されたことは、人間はある時点で権威をより高い力に委ね、ただ道具として、トップからの命令、国の法律、会社の方針などを遂行するようになるということ。


それはまるで、ある時点で思考が停止してしまうかのように。

普段は行かない方向に押し出され、引っ張られてしまうのです。


ミルグラムは別の実験も行いました。学生に道路に立って特に見るべきものがないのに空を見上げてもらいました。そうすると、過激な方法を取らなくても、再び適合性を見出したのです。案の定、空を見上げる学生につられて他の通行人も立ち止まってじっと見上げました。そうするとますます多くの人の好奇心を引き付けることになります。(六本木や心斎橋のナイトクラブが、店内には誰もいないのに、寒空の下でも外に行列を作らせるのは、そこから発想したのかもしれませんね)。


また、ソロモン・アッシュなどの他の科学者は、「適合性実験」で集団思考が人間のより良い判断をいかに覆すかを示しています。考えられないかもしれませんが、参加者は、単純で明白な質問に対して、前の参加者が全員同じように答えれば、間違って同じように答えてしまうのです。 この場合も、たとえその答えが目に見えて間違っていて、参加者の正しい判断に反していたとしても、です。


ここまで読み進めて、これらの実験がヨガやウェルネスにどう関係するのか疑問に思ったかもしれません。その答えとして、ミルグラムの興味深い結論のひとつに目を向けてみましょう。


ミルグラムは、服従実験の参加者が本質的に悪い人ではないことを確信していました。彼らは皆、実験にストレスを感じ、生徒役に高いレベルのショックを与えるのをやめたいという明らかな兆候を示したとさえ述べています。しかし、権威に屈し、計画に従い続けることに対して、多くの人にとても強力な力が働いていたのでした*。


ミルグラムは、私たちの無意識を引っ張り、翻弄することが、合理的な思考を覆すことを発見したのです。


そして、そのシンプルな解決策を導き出しました。


自分自身と無意識を意識することで、自由を手に入れることができる

ミルグラムの言葉は、古代の聖者や思想家たちの言葉と重なります。偉大なヨギ、聖人、賢人たちは、飼いならされていない心は不幸と苦しみをもたらすだけだと警告しています。ヨガと、それに関連する瞑想とマインドフルネスの科学は、この束縛から私たちを解き放つために彼らが開発したツールなのです。



現代のウェルネスは、ホリスティックにアプローチすることで、私たちの生活やライフスタイル(身体的、精神的、社会的)、そして環境をより意識することを求めています。 ウェルネスでは、私たちを健康とウェルビーイングから遠ざけている悪しき習慣に気が付くことを必要としています。そして、ウェルネスでは、新しい、役に立つ習慣を作り、育てることで、これらの好ましくない引力を打ち消すように促すのです。


ミルグラムの研究は、私たちの日常生活における警戒心を喚起するものといえるでしょう。

言い換えれば、ウェルネスの道を歩むことは、自己認識を追求することに似ています。自己認識によって、私たちの理性的な感覚を覆す無意識の引力から解放され、人生の激動に耐えることができるようになるのです。


*注:ミルグラムは、第二次世界大戦中のニュルンベルク戦犯/大虐殺裁判と、「ただ命令に従っただけ」という被告人の主張から着想を得た。


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